書庫

ここでは、ホームページ内で紹介している賢治さんの作品を掲載しています。関連した項目と対応させながら読んでみましょう。

山の晨明に関する童話風の構想

一九二五、八、一一、 つめたいゼラチンの霧もあるし 桃いろに燃える電気菓子もある またはひまつの緑茶をつけたカステーラや なめらかでやにっこい緑や茶いろの蛇紋岩 むかし風の金米糖でも wavelliteの牛酪でも またこめつがは青いザラメでできてゐて さきにはみんな 大きなレジン乾葡萄がついてゐる みやまうゐきゃうの香料から 蜜やさまざまのエッセンス そこには碧眼の蜂も顫える さうしてどうだ 風が吹くと 風が吹くと 傾斜になったいちめんの釣鐘草(ブリューベル)の花に かゞやかに かがやかに またうつくしく露がきらめき わたくしもどこかへ行ってしまひさうになる…… 蒼く湛えるイーハトーボのこどもたち みんなでいっしょにこの天上の 飾られた食卓に着かうでないか たのしく燃えてこの聖餐をとらうでないか そんならわたくしもたしかに食ってゐるのかといふと ぼくはさっきからこゝらのつめたく濃い霧のジェリーを のどをならしてのんだり食ったりしてるのだ ぼくはじっさい悪魔のやうに きれいなものなら岩でもなんでもたべるのだ おまけにいまにあすこの岩の格子から まるで恐ろしくぎらぎら熔けた 黄金の輪(くるま)宝がのぼってくるか それともそれが巨きな銀のラムプになって 白い雲の中をころがるか どっちにしても見ものなのだ おゝ青く展がるイーハトーボのこどもたち グリムやアンデルセンを読んでしまったら じぶんでがまのはむばきを編み 経木の白い帽子を買って この底なしの蒼い空気の淵に立つ 巨きな菓子の塔を攀ぢやう

山の晨明に関する童話風の構想】この言葉はどんな意味

晨明
しんめい

夜明けのこと。

wavellite
わーべらいと

銀星石のこと。銀星石細いのような結晶放射状集合してできた球状鉱物です。ガラスのような光沢があります。

牛酪
ぎゅうらく

バター。

こめつが

マツ常緑樹です。高さ大きいもので30mに達するものもあります。初夏小枝に1.5~2㎝ほどの小さな卵型花穂ができ、やがて褐色します。この実り様子乾葡萄例えています。

みやまうゐきゃう
みやまういきょう

高山がごろごろしている場所生えるセリ多年草です。香辛料使用されるウイキョウと様子似ていることからそのがつきました。

イーハトーボ
いーはとーぼ

岩手」を意味する賢治さんの造語賢治さんが目指し願った理想郷指す云われています。

聖餐
せいさん

なる食事。キリストにおける「最後の晩餐」に由来する儀式のことです。

がまのはむばき
がまのはんばき

がまは、水辺生えるがま植物。むしろやすだれの原料として使用されます。はんばきは、すねあて・脚絆呼ばれるもの。がまのはむばきは、素朴山登り作業服のひとつとして登場しています。

経木
きょうぎ

帽子素材です。薄いをひもにして編み帽子作ります。軽く通気性がいいので作業用として使われることが多かったようです。